本日は、岡本祐子先生の「アイデンティティ生涯発達論の射程」から引用いたします。第5章は「アイデンティティの生涯発達と心理臨床」というタイトルで、特に中年期に焦点を当てて論じております。
『中年世代の夫婦は、子の世代および親の世代の両方に対して、大きな責任と思い課題をかかえている。中年期の家族においては、祖父母、親、子の3世代のそれぞれが、ライフサイクルにおける同じ課題をかかえ、それが家族の中で交錯している。つまり、中年の夫婦が、自分の人生の見直しと後半生へむけての再方向づけというアイデンティティの危機に直面している時、青年期の子どもたちは、まさに親からの自立を試み、アイデンティティ形成の時期にある。一方、親たちは老年期に達し、自分の人生を振り返り、自己の人生と死の受容という、これもまた重要なアイデンティティの危機に直面しているわけである。このような家族発達の視点から見ても、中年期は相当重い臨床的問題を内包していると考えられる。(P154)』
また、中年期危機の構造として次のようにあらわしております。
1.心理的変化
自己有限性の自覚
2.生物学(身体)的変化
体力の衰え・老化・寿命の限界の自覚、ホルモン活動の衰退、閉経
→生活習慣病の増加、更年期障害
3.家族における変化
親役割の減少と終結、子ども自立、夫婦関係の見直し、老親の介護・看取り
→空の巣症候群、台所症候群、アルコール依存症、キッチンドリンカー、
離婚・家庭内別居
4.職業における変化
職業的達成・昇進・挫折、仕事の上での限界感の認識
→職場適応障害、上昇停止症候群、うつ、アルコール依存症
そして、岡本先生は「中年期の臨床的問題の背景には、多くの場合、アイデンティティの危機が存在している」と考えております。
この構造的な問題があれば元気な人であっても、結構堪えるのではないでしょうか。
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